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歌舞伎俳優、市川海老蔵(43)が座頭を務める「海老蔵歌舞伎」が東京・明治座(5月29、30日)と京都・南座(6月4~13日)で行われる。上演されるのは、話題の音声SNS「Clubhouse(クラブハウス)」を使って生まれた新作歌舞伎舞踊「KABUKU」と、時代物の名作「実盛(さねもり)物語」だ。場所も時間も超越した舞台が繰り広げられる。
創作過程にも可能性
新作の「KABUKU」は、江戸末期に民衆の間で流行した集団乱舞「ええじゃないか」をテーマの一つとして、お伊勢参りのお札を手にした瓦版売りが裕福になる中で物語が展開する予定という。音声でやりとりをするSNS「クラブハウス」でアイデアを出し合った。
「渋谷のスクランブル交差点で、海老蔵が歌舞伎をやってほしい」という意見も取り入れた。江戸時代の洛中(京都)と現代の渋谷が、時間軸を超えた設定になるという。
クラブハウスでの話し合いに参加した人は、聞いているだけの人も含めて、原案段階から演出の肉付けの過程まで、つぶさに知ることになる。
海老蔵は「音声だと直談判でき、イエス、ノーを即決できる強みがある。(制作過程自体をビジネスにする)プロセスエコノミー的に(歌舞伎の創作が)可能なのではないかと思った」と振り返る。その上で「どんな形で(公演)初日を迎えるのかを、(お客さまが)リアル体験で聞けるというのは今の時代でないとできない特別なことだ」と評価。伝統芸能の制作手法に新たな可能性を感じているようだ。「日本の文化を世界の方に楽しんでいただけるような企画にするのが一つのゴール」と抱負を述べた。
成田屋親子が共演
平家全盛期、源氏の白旗をめぐって展開される「実盛物語」では海老蔵が斎藤実盛を、息子の堀越勸玄=かんげん=(8)が太郎吉(たろきち)を勤(つと)め、成田屋親子による本作の共演は海老蔵と十二代目市川團十郎(だんじゅうろう)が昭和62年に共演して以来、34年ぶりとなる。
源氏方でありながら平家方を装い、窮地を脱する実盛。その魅力について海老蔵は、「綱渡りよりも難しいような人生のゲームを、実盛は渡り切る。その知的なセンスや、さばき役の格好良さにつながっていくところが、ドラマチックであり、実盛の良さだ」と語る。
勸玄との共演については、「年齢的に(太郎吉を演じるのに)ぎりぎりだ。順調に背も伸びているので、今回が最後になるだろう」とした上で、「私も父と演じていて、非常に思い出深い役。子供にとって大役でありながら思い出に残る作品でもあると思うので、彼と体現できることはうれしい」と話した。
勸玄は今回、南座での初出演となるが「鴨川には歌舞伎を始めたとされる『出雲阿国(いずものおくに)』の銅像があり、その前には南座があるので、倅(せがれ)とはそういった話がしたい」と笑顔を浮かべた。
筆者:水沼啓子(産経新聞)